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旅日記-我ら青春の1ページ 伊豆半島一周    第7日     土肥-沼津
     昭和35年(1960年)3月17日 木曜日   晴       
                                       今日の地図

  7:00 ここもやはりサイレンが鳴った。 一応みんなを起しておいて自分は起きない。 この間からずーとそうしてる。 いい気持ちだ。 遅れて起きても食事をするのは同時だ。 今日は自分の足のためダルマ山を断念。 一日早く船で沼津にむかう。 出発前一番強行軍を主調した自分が・・・。その自分のためダルマ山を断念するとは。 ともかく、女中さん(*1)の勧めもあって船で沼津に行くことは確実らしい(*2)
 9:45 出発。 500円にしては最高の部屋と思ってもいいだろう部屋に別れをつげ出発。 今日も足が痛い。
10:10 少しおくれた船に乗る。 すいている。 少し高い所にすわる。 テープで形だけ別れを惜しむ。 番頭はんとお客はん。 日本人ここにあり。 紙切れに情はない。 あとは物理的現象で、どこで切れるかが問題だけ。 それも切れて、土肥温泉も小さくかすむ頃船の前方へと出て見る。寒い。 けれども富士が見えるまでは立つ。 今日はすばらしい天気だ。(当番は僕だ。やっぱり・・・)南アルプスの山々が見える。 北アルプスであるか南アルプスであるか、しばし論争。寒さはきびしい。
 リップをなめると塩からい。 それでも立つ(*3)
。 海はやはり青い。 建設中の新道路がはるか山の中腹に見える。 岩に波があたって、くだけて、白い。 見えた。 富士が左側からゆっくり、ゆっくり見えてくる。 いつ見ても美しい。 完成された美しさ。(*4)船はかまわず進む。 富士が完全に見えたところで各自思い思いのポーズで写真をとる。 みんないやにすます。 どんな顔をしてみてもつまらん顔(*5)だということを知らないのだろうか。 “鏡を見ろ”と言いたい。でも“知らぬが仏” あの顔でみんなカメラにおさまっちゃった。 やがて戸田港へとよるため船は大きく右へと回る。
  11:00 戸田発。 本当の今日の目標ダルマ山が高く遠くに見える、美しい山だ。 あの山に登るのを、ただ、僕の足のためにみんなが断念した(*6)
のかと思うと、ただ残念だ。 しばし遠ざかりゆくダルマ山とみじめな自分の足を見くらべて声もなし。 “諸君許せ”今度はきっと他人に迷惑をかけないつもりだ。 許せよ。 しばらくして船が右へ回るとダルマ山も見えなくなった。 仕方なく足を見るのみ。 東京を出た一週間前はこうではなかった。 “うつり変わる世の中、花のちりゆく”口の中で言ってみた。 他の三人は歌を歌っている。 “許せよ、友よ。 ダルマはついに隠れにけり。(*7) 船はそんな気持ちにおかまいなく進む。大瀬崎も過ぎた。
  12:10 沼津港着。 すぐ少々歩いて、海岸に出て、昼食の準備をする。 ここからも富士はよく見える。 石を集める者、米をとぎに行く者、しかしおれはただ座っている。(*8)
 燃料はよく乾燥していて便利だが、時々異様な臭気をはっするものがある。 そのうち無事にカレーと御飯が出来上がる。 実は御飯の前にトリスをグラスに1.5杯程飲んだのだが、だれも何ともない顔をしている。 ノンベエかどうかは知らないが、飲めないことはない。 御飯は時々砂をまぜながら食べる。 6合以上のメシが間もなくカラ。 歩きもしないのに食う奴もいるものだ。 食後海水でハンゴウ、食器を洗う。 海水はハンゴウに縄をつけ海へ投げ入れて汲む。 いい方法だ。 おれが考えた方法だもの。 食器洗いの後、ミカンのカンズメとアズキを頂く。 そして出発。 昨日は大学合格者発表日とやらで(*9)コスポリにスカウトするつもりかどうか、みんな“静岡版”を読みたがっている。 その話のついでに海岸を女生徒が通る度に関心を持つ奴がいる。多少そういう事にガメツすぎる。 注意してもらいたい。(*10)
 服部の言うには、660円程集めた金があまるそうだ。 そこでIKさんのとこまでタクシーに乗ることにしようとしたが、バスが運悪く?来ておじゃん。女性というとすぐ気にする奴がいる。 頭に手をまわして舌をだすのはエテ公だけでたくさんだ。(*11)
 もっとも親類とあれば同じこともしたいのだろうがね。
 ともかくバスに乗って出発。  4:00 無事到着。 久しぶりに彼女のお顔を拝見。 足の痛さも―-(*12)。 相撲を見、ミカンをごちそうになり、お話をし、やがて夕食。 去年の四月まで全然知らなかった人たちに、こんなに歓迎されるのだろうか。 とにかく“持つべきものは友なりき”というところだ。
しかし。 昨日寝る時に、日記には“明日はいよいよ待望の沼津だ”と書こうと思ったのに―――。皆よ、許せ!   (*13)                                                                                                  A.O.
        

<日記ページへの当時の落書き>
 *1 <実は“さん”をつける程でもないが>
 *2 <IKさんに逢うには舟の方が早いものね。もっともだ、もっともだ>
 *3
<沼津の方向が気になる>
 *4 <何(誰)かみたいね>
 *5 <つまらんかつまらなくないか、これも心の持ちよう>
 *6 <そのためばかりじゃないんだ。安心したまえ。服部、水島、升谷>
 *7 <文字通り手も足も出なかったんだネ>
 *8 <タマにはいいだろう。 指図するのも。電話をかけに行けなかったけどね>
 *9 <IKさんのようにすばらしい人を>
 *10
<気にするな。みんな純情なんだから>
 *11
<諸君、おぼえがあるだろう>
 *12 <ますますひどくなる?。ゴメンネ>
 *13 <IKさん! 沼津に着いて、みんな安心してしまったのか体中がいたみ始め、たいした土産ばなしも出来ずごめんなさい。>
                                                                              

                                          今日の地図

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