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ボヘミアの田園風景
 チェコには山がなく、平原もない、という。 ちょっと驚く。 バスの窓からの風景はどこまでも続く平原と見えるからである。 しかし、平原というのは、ハンガリーの大平原のようにまっ平らなところをいうのだそうである。 ボヘミアのこの地形は、どこまでも続くなだらかな丘陵地帯、というべきらしい。 地平線まで一面の畑であったり、あるいは森と畑が間断なく繰り返される。 中世の町並みと同時に、この風景にあこがれて来たのである。 北海道の車窓からの風景を見るとき、ヨーロッパの風景に似ていることを喜ぶが、ここでは、その風景が終わることなく続くのである。  畑は、大麦やライ麦、とうもろこし、牧草などである。 
 畑はみどり一色、と表現したくなるが、その色調は微妙に変化している。 作物の違いだったり、雲の流れが陰を落して描くグラデーションだろう。 収穫の時期に近づいた黄金色の小麦畑もある。 道端のところどころには白や赤色の花が彩りを添えている。  ときどき、みどりのうねりの間に、小さいながらもしっかりした尖塔がそびえる教会や赤瓦の家々の町、いや集落が現れる。 実に見事な絵である。 この風景は天国そのものだ。

 交差する道路には並木があって、バスは一瞬のうちに通り過ぎてしまうが、これも絵の世界である。 日傘をさす夫人をポプラ並木に描いたモネの世界であり、空の雲はシスレーである。 
  

 不思議に思うことは、川らしい川が殆んどないことである。 もちろん、ヴルダヴァ川はあるし、地図上では、ほどほどに川があることになっているが、この広大な畑に水が引かれているようには見えない。 散水装置もない。 小さな町にはそこを貫く小さな流れがあるようだが、この広大な畑は、天からの雨水だけで足りているらしい。 後で聞いたことであるが、最近の温暖化で、農作物は豊作続きらしい。 ワインも上物が出来ているとか。 麦も余ってしまい、発電用の燃料にまわすとか、それでは食料不足の国の人たちに申し訳ないなど、いろいろ議論が出ているそうだ。  いずれにしても、豊かな田園地帯である。 
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